不動産鑑定入門
継続賃料・地代について
不動産価格と賃料の基本的な関係
不動産の鑑定評価は、不動産鑑定評価基準では「不動産の経済価値を判定し貨幣額を以って表示する。」としています。また「不動産の価格(賃料)は、その不動産に関する所有権、賃借権等の権利の対価又は経済的利益の対価である。」とされています。つまり、不動産の権利あるいは価値は金額で表されることになるのです。
さて、そこで賃料ですが「不動産の経済価値は、交換の対価である価格と、その用益の対価である賃料があり、この価格と賃料の間にはいわゆる元本と果実の間に認められる相関関係が存在する。」とされます。
従って、ここで「果実」といわれる「賃料」の評価を行う場合は、「元本」としての不動産の「価格」をまず把握することが必須となります。そして、不動産の「価格」と「賃料」の「相関関係」を常に意識することが重要になるのです。
継続賃料とは?
賃料は一般的には、【1】新規賃料(正常賃料、限定賃料)【2】継続賃料(地代・家賃)に大別されますが、不動産鑑定で賃料評価が依頼される場合は、通常【2】の継続賃料(地代・家賃)のケースが多くなります。
○不動産鑑定評価基準では継続賃料を次のように定めています。
「継続賃料とは、不動産の賃貸借等の継続に係わる特定当事者間において成立するであろう経済価値を適正に表示する賃料である。継続賃料は、賃貸借等の契約に係わる実際支払賃料を改定する場合及び条件変更等により実際支払賃料を改定する場合等のものであり、契約の当事者が特定されていることにその特徴があり、【1】差額配分法、【2】利回り法、【3】スライド法、【4】賃貸事例比較法等の手法を適用し、かつ当該契約の内容、契約締結の経緯等を総合的に勘案して求める。」
継続賃料でご依頼を受けるケース
いずれにしても「実際支払賃料を改定する場合等」に発生する継続賃料を求める際には、その前段階として【1】の新規賃料を求めることになります。さて、この継続賃料の評価が依頼されるケースはおよそ次のような場合です。
- 【1】
- 実際支払賃料が周辺の賃料相場と比べて低くなり、貸主からその改定を求める際の理論的な根拠として依頼されます。また、こうした貸主からの申し出に対して、異議のある借主から、その理論的根拠として、鑑定評価が依頼される場合もあります。
※この逆の事例として実際支払賃料が周辺の賃料相場と比べて高くなり、借主からその改定を求める際の理論的な根拠として依頼されるケースもあります。また、こうした借主からの申し出に対して、異議のある貸主から、その異議の理論的根拠として、鑑定評価が依頼される場合もあります。 - 【2】
- 周辺の賃貸市場の慣行と比べ、不相応に高額な保証金が預け入れられているケースで、保証金の一部を借主に払い戻すのに伴い支払賃料の改定が必要となった状況で、その理論的根拠として、鑑定評価が依頼される場合です。
継続賃料の評価に対する当社の考え方
1、評価のポイント
継続賃料に関わる不動産鑑定評価においては、次の点を充分に認識し考慮・勘案のうえ評価しています。
- 【1】
- 具体的な評価手法においては、基礎価格・期待利回り・賃料差額配分率・スライド率・賃貸事例等の適切な把握が重要なポイントになります。
- 【2】
- 価格(元本)と賃料(果実)の間に見られる直接的な相関関係は、現実においてはかなり緩やかです。賃料の改定は少なくても2〜3年で、普通で4〜5年程度でタイムラグがありますが、時には大きく崩れるほどに不安定な場合もあります。つまり、地価が上昇・下落しても必ずしもすぐ賃料が追随するのではなく、仮に追随したとしても必ずしも地価の増減率と同率で賃料も増減する正比例の関係にあるのではないのです。つまり単に正の相関関係にあるだけに過ぎず、改定時期が遅れるにつれて、変動幅は縮小される傾向にあります。
- 【価格変動と賃料改定の時期的な相関関係】
- 昭和47〜48年の地価上昇 → 昭和49〜50年からビル賃料上昇
- 昭和60〜61年の地価上昇 → 昭和61〜62年からビル賃料上昇
- 平成4〜5年の地価下落 → 平成5〜6年からビル賃料下落
- 平成17〜19年の地価上昇 → 平成18〜20年からビル賃料上昇
- 平成20年後半〜地価下落 → 平成21年からビル賃料下落傾向にあり
2、継続賃料は「安易に改定しない」が基本
そもそも賃貸人・賃借人の両当事者間での強い相互信頼関係に基礎を置く当該賃貸借契約の継続・維持等を前提にした場合、現行の支払賃料を決定した当時の契約自由の精神や意思を充分に尊重すべきであり、安易に改定・変更すべきものではなく(契約は守らなければならないという基本大原則の順守)また改定・変更する場合においても、“できる限り両当事者への影響を少なくするように配慮すべきものである”という基本理念を充分に考慮し業務に努めています。(事情変更の原則及び借地借家法第32条に基づく賃料改定・変更の必要性)
3、経済価値だけでは計れない継続賃料
継続賃料は、純粋に経済的な諸状況や諸事情だけを前提にして成り立つ経済価値ではなく、両当事者が既に締結しこれまで順守してきた契約内容によって生まれた状況を考慮すべきです。言い換えれば「特定の当事者間において成立するであろう経済価値を適正に表示する賃料」であり、多分に法的・私法的な諸事情からの影響を受ける経済価値で「契約等によって縛られている」ということもできます。従って、このような制約が付いた継続賃料は、まさしく特定当事者間でのみ妥当性ないし相当性を持つ、言わば主観的な経済価値(継続賃料)だといえます。
4、調停・訴訟を視野に入れた鑑定評価を
継続賃料評価を依頼される場合には、【1】裁判所外の交渉段階【2】裁判所における調停段階【3】裁判所のおける訴訟段階等の3段階があります。
継続賃料という特殊性を考えると【1】の段階であっても将来的には調停・訴訟等が充分予測されます。従って、評価依頼受付時はもちろん、それ以降においても依頼人側の諸事情を充分把握し、依頼人本人・依頼人側の弁護士等との連携の下で、充分に法律解釈(特に民法・借地借家法等)を織り込んだ単なる鑑定評価に止まらない評価を目指し対応していくことが重要になります。そして当社は、そうした業務に高度な実績を積み重ねています。
最後に、改めて継続賃料の評価とは
これまでお話したように「継続賃料」の評価は、賃貸人・賃借人両当事者が、賃料の増減改定に関する利害関係の中で適正妥当な賃料のあり所を指摘することであり、この点こそまさしく不動産鑑定の社会的・公共的意義の重大さを示すものです。
従って、具体的事案においては、依頼人が賃貸人なのか賃借人なのかそれとも当事者以外の弁護士・裁判所等なのか、また依頼人の要望は賃料の増額か減額か等に応じた適切・妥当な経済価値の判定・評価をすべきなのです。そして、その結果として両当事者がこれまで通りの継続的信頼関係を維持・構築できるようにできるだけ「信義即・禁反言」の法理等に則った配慮・勘案・助言等をすべきものであり、そのことがまさしく「不動産鑑定評価」という本来の趣旨なのです。
鑑定評価額にいわゆるストライクゾーンがあるとすれば、そうした範囲内においてできるだけ依頼人の要望に沿った評価額を提示するように心がけて評価する時に達成できる金額であると定義できます。
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