当社実績

借家権価格(立退料相当額)

1.所在地

 東京都の商業地域

2.依頼目的

 賃貸人から建物の明け渡しの要求を受けた場合における、借家人の不随意の立退きに伴う場合として、適正妥当な「借家権価格(立退料相当額)の参考として」である。

3.類型

借家権(立退料相当額)

4.価格の種類

 市場性を有する不動産について、不動産と取得する他の不動産との併合(本件では、賃貸人から建物の明け渡しの要求を受け、借家人が不随意の立退きに伴う場合に、賃貸人による貸家及びその敷地等と借家権との併合)に基づき正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離することにより、市場が相対的に限定される場合における取得部分の当該市場限定に基づく市場価値を適正に表示する価格(事実上喪失することになる経済的利益等が賃貸人との関係において個別的な形をとって具体的に現れる価格)であり、「限定価格」と判定した。

5.評価手法

「借家権」とは、「借地借家法(旧借家法を含む)が適用される建物の賃借権をいう」と定義されている。
 借家人は、同法により長期間居住し又は営業することによって生活上、営業上の種々の利益を受ける権利を有しており、従って借家権の経済価値は、同法等により保護されている借家人の社会的・経済的・法的利益等により形成されているものといえる。しかしながら、借家権は、賃貸人の承諾なく第三者へ譲渡し得ないものであり、居住用建物の場合については、有償で借家権を取得して居住しようする者は一般に存在しないので、居住用建物の借家権は、交換市場において市場価値を形成するということはほとんどないと思われる。但し、本件の如く営業用建物の場合には、通常は、借家権の対価だけではなく、営業権(いわゆる暖簾代)の対価、譲渡人が付加した造作の対価等も含めて、市場価値を形成している場合があることに充分留意が必要である。
 通常、借家権の経済価値として具体的に認識される場合は、i )賃貸人からの建物の明け渡しの要求を受けた際、借家人が不随意の立退きに伴い事実上喪失する経済的利益の補償を受けるとき、ii )公共用地の取得に伴い損失補償を受けるとき、及び iii )都市再開発法において、施設建築物の一部について借家権の取得を希望しない借家人に対しての、当該借家権の補償等であると思料する。
 このように借家権価格は、立退きに関連して取り扱われることが多く、「借家人が事実上喪失する経済的利益の喪失」及び「利用権の消滅補償」等が借家権価格を構成しているものと考えることができる。一般に、交換の対価である価格には、利益を生み出す元本の価値として把握されるが、借家権価格(立退料相当額)は、借地借家法(旧借家法を含む)により保護されている借家人の社会的・経済的・法的利益の経済価値を総称するものといわれるように利益を生み出す元本というほどのものが明確な形で存在していないので、喪失する利益の補償、すなわち「補償の原理」の観点から借家権の経済価値を把握することが通常である。そして、この場合法的な観点からは、当該借家権価格(立退料相当額)は、建物の明け渡しを要求する賃貸人にとっての正当事由の補強材としての意味を持つものと考えることができる。
 しかし、本件においては、賃貸人は周辺土地における再開発事業計画に伴い対象建物を取壊す必要等があることから借家人の立退きを迫るものであり、具体的には当該借家権の消滅に係わる事案であると解されること、及び本件借家の用途は高度商業地域内の営業用店舗であること等をも考慮勘案するに、「利用権の消滅補償」・「借家権の対価」として、即ち「借家権の買取り」の観点から、当該借家権の経済価値を把握することが妥当であると判断する。なお、鑑定実務においても、一般的に居住用建物については「補償の原理」の観点から、また営業用店舗等については「借家権の消滅補償・対価・買取り価格」の観点からアプローチしているのが通常であると思料される。
 不動産鑑定評価基準では、借家権価格(立退料相当額)の鑑定評価を求める手法は、(A)借家権の取引慣行がある場合には、【1】比準価格を標準とし、【2】「自用の建物及びその敷地の価格」から「貸家及びその敷地の価格」を控除した額について所要の調整を行って得た価格、及び【3】借家権割合により得た価格等を比較考量して求めるものとされている。

 また、(B)借家権の取引慣行がない場合には、【1】「当該建物及びその敷地と同程度の代替建物等の賃借に必要とされる新規の実際支払賃料」と「現在の実際支払賃料」との差額の一定期間に相当する額に、「賃料の前払的性格を有する一時金の額等」を加えて得た価格、及び【2】「自用の建物及びその敷地の価格」から「貸家及びその敷地の価格」を控除した額について所要の調整を行って得た価格等を関連付けて求めるものとされている。
 さらに、(C)当該建物及びその敷地の「経済価値に即応した適正な賃料(正常実質賃料)」と、「実際実質賃料」との差額に着目して求めるものとされている。
 上記の通り、不動産鑑定評価基準では、「借家権慣行及び借家権の取引慣行の有無とその成熟度は都市によって異なり、同一市内においても地域によって必ずしも一様ではない」としているが、不動産に関する権利意識の最も強いと思われる東京都においても、借家権が慣行的に取引されている地域は現実には存在しないものと思料される。即ち、借家権は借地権の如く慣行的に取引の対象とされることはなく、かつ借家権は個人的な信頼関係に基礎をおく権利であって、客観的な取引市場の成熟をみていないのが実際であるものと思料する。
 これらのことを勘案考慮したうえで、かつ依頼者等からの事情聴取等に基づき、以下の通り評価することにした。

i )
最初に、本件については、依頼目的・事情聴取等から、賃貸人からの建物の明け渡しの要求を受け、借家人が不随意の立退きに伴う場合に、事実上喪失することとなる経済的利益及び利用権の消滅補償等、賃貸人との関係において個別的な形をとって具体的に現れる場合であると判断される。本件においては、前記の通り、賃貸人は再開発計画に伴い現況の対象建物を取壊す必要等があることから借家人の立退きを迫るものであり、当該借家権の消滅に係わる事案であると解されるため、「借家権の消滅補償・対価」として、即ち「借家権の買取り価格」の観点から、当該借家権の経済価値を把握することが極めて妥当であると判断する。
ii )
次に、具体的な評価にあたっては、本件賃貸人側からの立退き要求の経緯・理由等に鑑みて、あくまでも「借家権の消滅補償・対価・買取り価格・経済価値」という観点にたって、(A)借家権割合により得た価格、(B)当該建物及びその敷地の「経済価値に即応した適正な賃料(正常実質賃料)」と、「実際実質賃料」との差額に着目した価格を比較検討し、かつ(C)「当該建物及びその敷地と同程度の代替建物等の賃借に必要とされる新規の実際支払賃料」と「現在の実際支払賃料」との差額の一定期間に相当する額に、「賃料の前払的性格を有する一時金の額等」を加えて得た価格(損失補償額)等をも参酌して、求めることとした。
iii )
最後に、借家人立退きに伴う「移転費用補償・営業補償(休止・廃止)等」をも考慮すべきであるが、依頼者側からのご提示資料の制約(賃借人側の経営状況等を把握できるような直近の貸借対照表や損益計算書等の財務諸表の入手は不可である。)等により、かつ不動産鑑定評価基準においても当該項目についての具体的な記載がないこと等を考慮勘案した結果、当該項目の試算については断念することとした。
 しかし、本件では、「移転費用補償・営業補償(休止・廃止)等」の項目については、前記の通り、建物賃貸借契約における特段の特約条項はないが、実務的には賃貸人及び賃借人の協議のうえで別途決定する余地が残されていることに鑑みた場合には、【1】「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」(昭和37年6月29日閣議決定)、【2】「公共用地の取得に伴う損失補償基準…通常用対連基準という。」(昭和37年10月12日用地対策連絡協議会決定)、【3】「公共用地の取得に伴う損失補償基準細則…通常用対連基準細則という。」(昭和38年3月7日用地対策連絡協議会決定)等に基づき、移転費用補償・営業補償(休止・廃止)等をも考慮勘案した借家権価格(立退料相当額)をあくまでも推定のうえ参考として求めることには、充分合理性があるものと思料するものである。
 不動産鑑定評価基準では、「不動産の鑑定評価とは、不動産の経済価値を判定し、貨幣額を以って表示することである。」と定義されており、上記の「移転費用補償・営業補償(休止・廃止)等」の項目については、純粋に不動産の鑑定評価の定義からは乖離してしまうこととなり、所謂不動産鑑定評価の周辺的付随分野・コンサルタント的分野等であると位置づけられているのが通常一般的な考え方であり、極めて賃貸人及び賃借人相互における個別・相対的な事情・問題であるものと思料される。
 しかし、それはまた、この社会における一連の価格秩序の中で、対象不動産の価格の占める適正なあり所を指摘することであり、その社会的公共的意義は極めて大きいものであること及び今日における依頼者側の多種多様化したニーズ等に鑑みた場合には、不動産鑑定評価基準で定義するところの正規・純粋な意味での不動産鑑定評価とは乖離し異なるものの、当該不動産鑑定評価の周辺的付随分野・コンサルタント的分野等として、依頼目的に応じた適切な評価(損失補償額)等をも併せて評価のうえ、できる限り依頼者のニーズに対応すべきであると思料する。
借家権価格(立退料相当額)
一括賃貸借契約(サブリース)の継続賃料
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事業用定期借地権が設定された底地の担保評価
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